その想いは紅く燃え上がり

降りしきる雨の爆音にも負けない、子供の泣き声を聞いた気がした。
助けて、と叫ぶ声がした。
だから、私はその手を取った。
彼の顔に、笑みを浮かばせてやりたいと、思ったからだ。
そして、それ以上に…………
彼は、とても美しい泣き顔をしていた。

+その想いは紅く燃え上がり+


朝は、とても穏やかに訪れた。
寒さに打ち震え、寂しさに嘆くことのない、あたたかな朝。
寝台の上で、その布団の暖かさを確かめる。
ごろりと寝返りを打てば、響くのは寝台のきしむ音ではなく、少年の腰の骨がきしむ音。
少年はうっ、と呻いた。
そろそろ少年とは言えなくなってくる年である。
少年は、もうこの生活は無理かも知れないと思った。
「おや、起きたのか」
昨夜さんざん間近で見た、あの男の顔が戸口にあった。
頭の中で熱い思いが渦巻いていようとも、なぜか、目はいつもどこか冷めている。
そんな、変な男だった。
少年は上体を起こすと、何も言わずに男を見た。
「無愛想なヤツだ。……嫌われるぞ」
男が低い声で言うと、少年は肩を少しふるわせて、不安げな目を見せた。
男はそれを見て少しだけ口の端を上げる。
少年にとっては、初めて見る男の笑顔だった。
「少年、名は?」
首を振る。名など無かった。
なら、姓は?と男は無言で問いかけてくる。
少年は再び無言で首を振った。
「名無しでふらついていたのか」
なんだかバカにされているようで、少年は苛ついた。
睨み付けてやると、男はさらに笑みを深くした。
「そうだ。私が名を付けてやろう。いいだろう、光栄に思え」
ふい、とそっぽを向く。付き合いきれない、と少年は思った。
どうせ、一晩限りの仲だ。名など、遊びのようなものだろう。
「よし、お前の名は、こう、ゆう、これでどうだ」
男は手近にあった紙に、「絳攸」と書き付け、少年に見せた。
絳攸・こうゆう。
ふしぎだ。名などいらないと思っていたが、少年はその名を拒絶できない。
反応がないのを肯定と見たのか、男は書いた紙を少年に放った。
かさ、と寝台の上に紙が落ちる。
何気なくその紙を見た少年は目を見張った。その紙は、庶民の持ち合わせている金では買うことすら、触れることの出来ない相当上質な紙だったからだ。
この男は、まるでそこらのクズ紙のようにこの紙を使って見せた。この男、一体。
「どうした。まさか、私の字が汚いなどと言うのではないだろうな」
男の目は、どこまでも冷酷だった。人を見下すことしかできないような、そんな目だった。
しかし。少年は分かった。
その氷のような目の奥で、本当はひどく寂しいことを。
バカな男だ。少年は思った。
自分から人を遠ざけておいて、それで寂しいなどとは、自己中もはなはだしい。
「馬鹿」
少年は一言そう言うと、また寝台に潜り込んだ。


+++

ふと男が立ち止まる。
はぁ、と溜息をひとつ。
彼は、最近、変な夢を見るようになって悩んでいた。
少年の頃の恋人が、誰かに抱かれている夢だ。
きっと、自分の独占欲が顕著に夢に現れているのだろうと最初は思っていた。
でも。
その相手の顔が、どうしても自分の知っている顔に見えてならない。
その想像をうち切るように首を振る。
「夢……なんだよな」
いっそのこと、本人に確認してみるか。
いや。そんなことをしたら確実に死ぬだろう。
男は、夢と悩みと現実問題の狭間で揺れに揺れていた。


+++


ところ変わって。
吏部侍郎は相変わらず仕事をする気のない鬼上司の下、死ぬ寸前な仕事を無理矢理こなしていた。
「……死ぬ。絶対、死ぬ。こんなの毎日続けていたら……」
すぐになくなる墨を懸命にすりつづける下官達を哀れな想いで見つめながら、絳攸は再び筆を持つ。
申し訳ないが、書かないと仕事が終わらないのだ。
大体が、と絳攸は文句を小声で言い始める。
「黎深様が本気で仕事すれば、このくらい……!」
黎深は、やる気がないだけで、本気になれば、こんな書簡の山の二つや三つ、一晩で難なくこなしてみせる。
なのに、黎深はいつも自分の席で、書簡に囲まれながらお茶と蜜柑の毎日なのだ。
怒りに手がふるえ、ついうっかり紙の上に染みができてしまう。しかし、絳攸は気付かない振りをして筆を動かした。
その結果………やけに汚い字になってしまった。
「ま、まあ読めないわけではない!」
無理矢理まとめると、晩年忙しい男は書簡を処理済みの場所へ放り投げた。
それを拾って、見習いは他へと走る。
文字通り、走る。
しかし、十数個の書簡を持つことが人間の限界だ。何回も往復しなければ、山は終わらない。
走り回ってへとへとの彼らが帰ってくる頃には、出ていった頃よりもさらに多くなった書簡の山があるのだ。
よって、吏部の人間で太っているものはいない。
仕事だけで、極限の運動になってしまうのだ。
健康にいいんだか、悪いんだか…………
「あと半刻、あと半刻!」
しかし、そんな彼らにも、唯一の安らぎの時間がある。
それは、昼の三の刻の休憩である。
………黎深にとっては、毎日が休憩なのだが。
やがて、ごぉーん、と十五回鐘が鳴る。
三の刻の合図だ。
「よし、各自休憩とするッ!!」
絳攸は立ち上がって叫んだ。弾みに、すぐそばにあった書簡の山が崩れた。
しかし、誰もそんなことは気にしない。いや、気にしたくない。
たちまち、吏部から人がいなくなっていく。
黎深以外誰もいなくなった部屋で、絳攸は気付いた。
ひゅうっと、冷たい風が吹き抜ける。
…………府庫に、行けないかもしれない。


楸瑛は苦笑した。
今にも倒れそうなほど疲れた絳攸が、きょろきょろしながら廊下を進んでいるのが目に入ったからだ。
「ねえ、君。ドコへ行こうとしているわけ?」
ぎくっとして絳攸が振り向いた。
「馬鹿野郎!どこって、分かっているだろうに聞くな!」
ぜえぜえと荒い息をしながら、絳攸は楸瑛を睨み付けた。
「ははは。だって、君本当に馬鹿なんだもの。笑うしかないと思わないかい?」
ははは、と高らかに笑ってみせる楸瑛。
ぶちっ、と絳攸の中でなにかが切れた。
「お前な!!俺はこれでも必死でここまで来たんだ!」
「いや、努力は褒めてあげるよ。でも」
「でも、なんだ!」
楸瑛は溜息をひとつついて答えた。
「府庫は、あっち」
「なんだと!?」
楸瑛の指差した方向は、今絳攸が進んでいた方向の、真逆だった。
「やっぱり、だめだね。治らないのかい?君のその方向音痴は」
やれやれ、と楸瑛は首を振った。
再び、ぶちっと先程よりももっと太い何かが切れる音がした。
「うるさいッ!生意気だぞ楸瑛!!俺だってなりたくてなったわけじゃあ……っ、て、アレ……?」
絳攸の視界がぼんやり霞んで見えるようになった。くらくらと、回転する。
続いて、身体に力が入らなくなる。ふらふらと楸瑛に、いや、実際には府庫に向かって歩く。
「力が、入ら、ない……?」
「絳攸っ!?」
どさり。
絳攸はそのまま楸瑛の腕の中に倒れ込んだ。
「ちょ、ちょっと大丈夫かい?」
「〜〜〜っ……」
楸瑛は焦って声をかけるが、絳攸は、そのまま意識を失ってしまった。
「はぁ。なんだって君はそう柔なんだろうね、全く」


「う〜……」
絳攸は、額に冷たい水に浸した布を当て、顔を上気させて呻いていた。
その横で、心配そうに、だけどすこしだけにやにやしながら、楸瑛はそれを眺めている。
「“鉄壁の理性”も病魔には勝てないのかねぇ」
“あの男”は自分の部下がどうなってもいいと考えているのか。
自分のために働いてくれて、身を削ってもらっているのに。
自分なら、相応のお返しをするものを、と楸瑛は考える。
大体、人によって態度を変えすぎなんだあのキツネは。
「……おや」
そこまで思って、楸瑛は苦笑する。口元に持っていった手を、そのまま絳攸の頭に添える。
(私はずいぶんと絳攸に似てきてしまっているね)
その手は優しく絳攸の髪をくしけずる。ここまで、誰かと共に笑い、泣き、怒り合えば、相手に似てきてしまうものなのだろうか。
否。似たのではないのであろう。
今まで出てこなかった内面が、溢れだしているだけなのかもしれない。
「ねぇ、知っているかい?私はこんなにも君を愛してしまったんだよ」
楸瑛の溜息のような告白を聞いているのかいないのか、絳攸はごろりと寝返りを打った。

『………う』

かすかに、かすかに聞いた気がした。
そしてそれは、楸瑛の中に封じ込めた渦巻くものを再び巻き起こしてしまった。
寝台の上で、痛みに呻く声を。そして、悦びに喘ぐ声を。
一瞬だった。その何かの群像と重なってしまった一瞬だけ、彼が、遠くへ行ってしまいそうになるのを感じてしまった。
楸瑛は素早く彼を組み敷く。
(……確かめてやる)
何を、とは考えなかった。いや、考えたくなかった。
今このときは、自分だけを見て、自分だけを感じて欲しい。
やや乱暴に、絳攸の服をはぎ取っていく。
激しく揺さぶられ、絳攸は少しだけ目を開けた。
「ん…、痛っ……え?」
熱でぼやけた視線の先に、絳攸は獣のような双眸をみた。
冷たく鋭い、それでいてなにか悲しげな…………

『ほう、いいだろう。お前を買ってやる』

思い出した。
深い水底から浮かび上がってきた。
雨。差し伸べられた手。触れられた素肌の感触。与えられた快楽の全て。そして………
「絳攸……」
「………!」
熱に浮かされていた絳攸の意識が急に覚醒した。
目の前に迫っている楸瑛の顔を思い切り殴り飛ばした。
「な………」
呆気にとられている楸瑛を一瞥もせず、絳攸は飛び出していった。
「絳攸!」
楸瑛の叫びは、絳攸の背中を止めることが出来なかった。

絳攸……

それは、俺が初めて「与えられた」もの。



+++


武官にしては、呆けている時間が長すぎた。
はっとして見回せば、すでに愛しき者の足音さえ聞こえない。
「………くっ」
なんて事をしてしまったのだろう。
あれでは、ただ想いをぶつけただけだ。
そして
「嫌われて、しまったかな」
どうして、笑いがこみ上げてくるのだろう。
悲しくて、悲しくて仕方がないのに。
「何だ、将軍ともあろう者が無様だな」
「何だと……!あ、あなたは……」
戸口に、もたれかかるようにして立っているこの男は………
はらり、と扇が開かれる。
「人一人守れずに、よくその職に落ち着いているな」
「も、元はあなたが彼を……」
くわっ、と氷の男の瞳が楸瑛を射抜いた。
「馬鹿者!私は奴に“笑顔”を与えるために泥の中からつまみ上げたのだ!最近はお前という相手ができたというので少し甘く見ていたが!何だ、期待はずれだったのか、ああ!?」
「れ、黎深殿………」
両側の耳に大音響の声が突き刺さる。
あまりに迫力がありすぎて、部屋が壊れそうだ。
だが、なんだかこの怒りかたは、
「親バカ……?」
「何だ、何かいったか木偶の坊!」
何だ、と楸瑛は思う。
「何も」
楸瑛は頭を振った。
この男は“父親”なのだ。
“恋人”ではない。義父以上にはなれないのだ。
妙に、ほっとした自分がいる。胸の支えが降りた。
「黎深殿」
にっこりと楸瑛は笑った。
「ありがとうございました」
「ああ……は?」
そして、一礼すると部屋を走り出る。
きっと道に迷っているだろう彼を、迎えに行ってあげなければならない。
部屋には、困惑する黎深が一人残された。


++


なぜ、頬を冷たいものが流れるのだろう。
一応、アレは嬉しい記憶のハズだ。
(俺が、初めて“穏やかな朝”を迎えられた…………)
多少腰は痛かったが、本当に嬉しかった。
「っ……、楸瑛……」
結局、裏切った形になってしまった。
忘れていた、なんて言い訳にはならないだろう。実際、本当に忘れて、否、忘れたかったのだ。
騙していたのだ。この世で一番愛する男を。
深い悲しみの中で、ふと考える。
雨が降れば、この涙を覆い隠してくれるのに………
「ごめ……、俺……っ」


「ごめ……、俺……っ」
小刻みに震える背中を、優しく抱きしめた。
「………」
言葉は出てこなかった。
この抱きしめる腕の優しさが、彼にとっての全てだった。
「いいの、か…?」
一言、呟く。きっと、彼は全部分かってしまっただろうから。
後ろは見えないけれど、香る彼の匂いが揺れたことで察することは出来た。
是、と。
もう一度、涙がこみ上げてきた。
「もう、泣かないで。私が泣かせてしまったみたいだろう?」
「お前、が…っ、泣かせた、ん…だろ……っ」
くすり、と笑われた。
それが、たまらなく悔しくて、いらだたしくて、でもたまらなく愛しい。
「私が愛したのは、その身体だけじゃない。声も、匂いも、心も、もちろん名前も、全てひっくるめて……私が愛した“絳攸”だよ」
もっと知りたい? と耳元でささやいてくる。
絳攸は紅くなって、でも少しだけ笑って答えた。
「教えて……、もっとたくさん」
「御意」
恋人達は、廊下のど真ん中で、もつれ合ったままくずおれた。
熱い吐息と共に。


日の落ちかかった、薄暗い廊下の片隅。
白い肌が真っ赤に染まり、まるで雪の中の寒椿のように美しく映える。
「どうしたんだい、いつもより……」
そう言って唇を離し、楸瑛は笑みを浮かべながら絳攸を眺めた。
「あっ、止める、な……ッ」
急に放っておかれてしまった熱が居場所を求めて、淫蕩に揺れる。
普段いつもされるがままだった絳攸にしては珍しい光景だ。
「いやらしいね。昔のことを思い出してしまったから?」
身を売ってばかりだった少年の頃。
そんな自分を拾ってくれた氷の男。
「違う、……」
ゆっくりと、絳攸は首を振った。
あの人のおかげで、いまの自分がある。でも、あの人がいなかったら、彼と出会うこともなかった。
単純に、嬉しかった。ただそれだけだ。
でも、その単純な感情と縁遠い生活だった少年時代を思い返すと、どれだけこの想いが大切な感情なのかを思い知らされる。
絳攸にとっては、どちらもかけがえのない大切な人だ。
けれど“大切”と“愛しい”では比べものにならないほど差が開いている。
「俺は、お前も黎深様も、どちらも同じくらい“大切”だ。だけど……」
絳攸は少し身を乗り出して、楸瑛の首筋に吸い付いた。
「黎深様よりも、お前の方が“愛しい”……これではダメか?」
「十分さ。私も、君に負けないくらいの想いをかえさないとね。………それに」
にぃ、と楸瑛は何かを含んだ笑いをした。
「いやらしい君は、最高」
「……馬鹿」
二人の熱は冷めることを知らなかった。


+++


「よく行ったな、黎深」
ぱちり、と言葉と共に石がおかれる。
「うるさいな。気付いたら怒鳴っていたんだ」
黎深は仮面を睨み付けると、力任せに石をおいた。
「さっさと負けを認めろ、鳳珠」
不機嫌丸出しである。
仮面の下で、奇人は眉をひそめた。
確かに、このままでは負けてしまう。
「私はあきらめがわるいのだ」
ぱちり、と石がおかれる。黒の進行を止める、白の一手だ。
しかし、まだ黎深の方が三目ほど勝っている。
「ふん、お前が私に勝つわけがなかろう」
ぱちぱちと石をおくスピードが増していく。
黎深は非常に強引に目を広げていく。三目が五目に、五目半に……
「ふざけるな!」
奇人は吠えた。昔から思っていたが、このうち方はおよそ正規の作法に則っていない。
「いいだろう、勝ちは勝ちだ」
「………なんて奴だ」
奇人は頭が痛くなった。どこまで自分勝手な奴だ。
「その傍若無人さもどうにかした方がいいぞ、黎深」
「何だと、鳳珠!お前こそ、たまには私に勝って見せろ!」
普段は氷だとか、冷酷だとか言われている黎深だったが、奇人の前だと昔に戻ったように感情を露わにする。
鳳珠は、悟られないように仮面の下で苦笑した。
………そんなところが、また可愛い。
奇人はくい、と黎深の顎を持ち上げた。
「お前が、私に負けたことがあったか?」
黎深を、頭のてっぺんから足のつま先まで、眺め回す。
まるで、知らないところはないとでも言いたげに。
「なっ……!」
絡みつくような視線に、黎深は顔を赤らめて手を払いのけた。
しかし、否定はしない。
結局は、全てを鳳珠に握られているのだ。
鳳珠はこらえきれなくなって笑い始めた。
「何故笑う」
「氷の男、紅家の当主・紅黎深が私ごときに……っ」
囲碁板が大きな音を立てて倒れた。
石が床に散らばる。しかし、抑えた笑いは消えることはなかった。
黎深はしばらく奇人を睨んでいたが、やがてくるっと背を向ける。
「邪魔したな」
短気なのは昔から変わっていないらしい。
冷静を保とうとしているが、肩が怒りに小刻みに震えている。
「こら」
奇人は慌てて黎深を引き留めた。
そのまま、細く白い指で腰をなで上げる。
「帰ってしまうのか?」
耳たぶを甘噛みしながら、そうささやく。
黎深が歯がみする。
何かに必死で耐えているようだ。
奇人はここぞとばかりに仮面を外した。
全身から何かのオーラ(普段は仮面のせいで怪しい)が常に放たれている鳳珠だが、今はそれがとてつもなく強烈な美のオーラとなって黎深を包み込む。
黎深を後ろから抱きしめながら、鳳珠はにやりと笑った。
「今頃、お前の愛しい息子も蜜事の最中だろう?」
「い、愛しくなんか、……」
「昔から、お前は素直ではなかったが、今の台詞は絳攸が聞いたら悲しむぞ」
急に、腕の中で黎深がくるりと半回転した。
鳳珠の形の良い唇に噛み付くような口づけをする。
「馬鹿、……お前の方が、愛しいと……んっ」
「………やはり、素直ではないな」
奇しくも、仮ではありながら、親子で似たような告白をしてしまった。
しかし、誰もそんな事は知らない。
言った側はこれ以上なく恥ずかしく、言われた側はこれ以上なく嬉しい。
「だが、そんなお前が好きだ」
きっと、免疫のない者が言われたら確実に即死だろう。
率直に、素直に、包み隠さず伝えてくる鳳珠の言葉は、昔から黎深の一番欲しいものをくれる。
「ふ、ふん」
真っ赤な顔でうそぶいた彼は、おおよそ普段の彼ではなかった。
きっと、愛する者の前では、誰しもが変わってしまうものなのだろう。
素直ではなくなったり、
かと思えば普段言わないような台詞もさらっと言えてしまったり。
彼の場合は、子供に戻ってしまうことだろうか。


恋人達は燃え上がるような恋をする。
相手だけを貪欲に求める存在となる。
手を伸ばし、掴み取るものは、いつでも相手の温かい手であって欲しい。
そう想いながら、恋人達は今日も囁き続ける。

………愛している、と。


後書き

すみませんでした。
絶対に、絳攸にこんな過去はありません。私の独断と偏見と妄想の産物です。
黎深が最近のヒットキャラなので、ちょこっと登場させてみました。当て馬?(笑  @空見

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