番外編


この短文は、「恋は愛よりも激しくて」にリンクしています。なので、先に「〜紅く燃え上がり」と「〜激しくて」をお読みいただくことをおすすめします。





「そういえば、そんなこと(注:「〜激しくて」で黎深が鳳珠を襲った(襲われた?)こと)もあったな」
床に散らばった碁石を片づけながら、鳳珠は呟いた。
そのすぐ傍らで、同じように石を拾っていた黎深は、耳まで真っ赤になっていた。
「まさか、お前があんなコトをするとは思わなかった」
「こっちだって思わなかったわッ!!」
一言叫ぶと、それからはむすっとした顔で黙々と石を拾い始める。
顔が赤いのは、怒っているせいなのか、それとも恥ずかしいからなのか、よくわからない。
「あの後、お前と朝まで抱き合っていたな。お前は出仕に遅れて、宮廷内の厠掃除をさせられていた」
言いながら、その時の何とも言えない黎深の顔を思い出し忍び笑う。
今まで持っていた、誇りという誇りが全てうち砕かれたような、そんな顔をしていた。
特に、武官が出入りする厠から出てきた黎深の顔は見物だった。
「うるさいな、お前の所為だろうが!」
綺麗な彫刻がなされた石入れに拾った石を乱暴に突き込みながら、言う。
「高価な物なんだから丁重に扱え」
「お前の財力ならこんなもの腐るほど買えるだろう!」
「これは私が独自に制作させた特注の囲碁用具だ。世界に二つと無い貴重品だぞ?みだりに傷を付けることは許さん」
その言葉通り、鳳珠は丁寧に石入れのふたを閉め、碁盤と一緒に棚へしまい込む。
「ああ……、もしこの碁盤に傷でもつくってしまったら……」
鳳珠が愛おしげに碁盤を撫でさする。
黎深はすっかり気が抜けて、手近にあった椅子に腰を下ろした。
「美しい物が好きなのか?」
「ああ」
やれやれ、と黎深は溜息をついた。
「美しさとは罪なものだな。その魅力に魅入られてしまったものの心を乱し、そして、奈落の底へと堕落させるのだからな………あ」
世界一美しい男が、少しだけ悲しそうな目をしてコチラを見たのが分かった。
黎深が焦ると、鳳珠は無言で再び仮面を付け、奇人となった。
「あ、いや、その……、お前が悪いワケじゃないんだぞ?」
鳳珠は、少し俯いて動かない。
鳳珠の手はずっと碁盤に触れたままだ。まるで、自分の痛んだ心を優しくなでるように。
「ただ、その、アレだ、ホラ。……な、奈落に落ちたのは、私だと…、そういうことだ」
はっ、とおどろおどろしい顔が黎深を見据えた。……はっきり言って、怖い。
黎深はかなり複雑な気持ちから、鳳珠の顔をまともに見れなかった。
「お前という名の美しき深淵に、私は捕らわれてしまった」
頭を、恥ずかしそうにかく。
つまりだ、と黎深はやっと鳳珠に目を合わせた。
「美しいお前が、好きだ。この世できっと・多分・確率的には一番美しいお前が」
だから、そのやたらと悪趣味な仮面を取ってくれ。

ややあってやっと仮面を外した鳳珠は、顔中に喜色が現れていた。

後書き とは名ばかりの言い訳

ありゃ〜。
私にしては珍しくギャグに走ってみたら、失敗しましたね(汗
それにしても、黎深ってばなぜか鳳珠の前だと素直になりますね(笑
まぁ、そんな黎深が可愛いんですけどもv
鳳珠の仮面が悪趣味だと思っているのは、私だけ……?  @空見

Back