パペット

この作品は、イタイ&(精神的に/笑)大人向けです。
オッケー、どんとこい! という方はスクロールGo Go!






「このクスリを食事の中に入れるんだよ」

もらったのは良いけど。
何で、おれが?

「そうすれば、キミの思い通りじゃないかい……?」

このクスリを入れれば………………何だって?

+パペット+


「ティットレーイ!!ご飯、まだあ!?」
元気のいい声が、台所に響きわたる。
丁度、いま煮込みに入ったところ。ティトレイは、鍋をかき混ぜつつ答えた。
「マオ!もうちっとでできるぜ!待ってろな」
陽気に答えるも、ティトレイは言うほど元気ではない。
さっきの、男のことが頭からはなれないのだった。
もらった小瓶は、いまティトレイの手の中にある。
……毒だ。

コレを入れたら……。

ティトレイは、ビンのふたをそっと開ける。そして、すぐにしめた。

おれが、入れられるかよっ!!

ポケットの中にむりやりビンを押し詰めると、ティトレイは出来たばかりのスープを皿に盛り分けた。


きっかけは、ヴェイグだった。 

戦闘が相次ぎ、みんなが疲労困憊しているところ、
「ッ……」
ヴェイグが、突然呻いて片膝をついた。
「ヴェイグさん!?」
「ヴェイグ!?」
疲れが出たのかと思った。
アニーが駆け寄って、ヴェイグを診ると、ヴェイグは仄かに赤い顔で、息を肩でしていた。明らかに、高熱があった。
「ヴェイグさん!急にこんな熱が出るわけありませんよ。いつからですか?」
「……っ」
ヴェイグは唇を噛んでうつむいた。
自分一人が我慢すれば……
今の自分よりもっと酷い目に遭っているかも知れない人たちを考えると、そう思わざるをえなくなる。
「我慢しないでください。ほら、逆にみんな心配するでしょう?」
ヴェイグははっと顔を上げてみんなの顔を見る。
心配顔をしていない人はいなかった。
「すまない……」
小さく呟くと、ヴェイグは立ち上がろうとした。
が、熱のせいか、足下がおぼつかない。ふらっと倒れたところへ、
「お前、そんなになるまで我慢してたのかよ」
ティトレイがヴェイグを支えていた。
ためいきをつくと、ティトレイはヴェイグの肩に腕を回して、街へと向かった。
「……まない」
ヴェイグの声は、とてもか細かった。

「まあ、風邪ですかね。熱がある以外は特に症状もなさそうなので。しばらく安静にしていてくださいね、ヴェイグさん」
アニーは優しく言って、ヴェイグの上から毛布を掛けた。
「……暑い」
「文句は言わない。さ、寝てください。寝るというのは、一番の休息法なんですよ?」
不平を言うヴェイグだったが、年下のアニーにたしなめられ、ばつが悪そうに口をつぐんだ。
「わかった」
ヴェイグは目を閉じ……、そして間もなく眠りに堕ちていった。

「なあ、アニー」
「なんですか?ティトレイさん」
心配でいてもたってもいられないのか、ティトレイは気持ち焦ってアニーを問いつめた。
「ヴェイグ、大丈夫だよな」
「心配ないですよ。ただの風邪ですし」
「本当か?」
あまりにも必死なティトレイに、アニーは苦笑して、大きく頷いてあげた。
それでようやく落ち着いたのか、ティトレイは大きく息を吐いた。
「なあ、ヴェイグんとこ行ってもいいか?」
「いいですけど……、病人なんですから、あんまり五月蝿くしないでくださいよ?」
さっき、薬を飲ませてきたばかり。もしかしたら、薬の効果で眠っているかも知れない。
「分かってらい!」
嬉々とした表情でヴェイグねている部屋を軽くノックする。
「入るぜ?」
しかし、応答はない。
寝てるのかな、とティトレイは思って、ドアを静かに開けた……。
「勝手に入るけど………って、ヴェイグ?」
「ん……、……」
ヴェイグは、無防備に眠っていた。
いつもの仏頂面とは似ても似つかないくらい安らかな寝顔だった。
「おまえ……、結構カワイイのな」
誰に言うともなく呟くと、ティトレイはベッドの横に腰掛けた。
「ん……、ティ…ト……、っ……」
「!」
今、自分の名前を言わなかったか。
ティトレイは、びっくりしてヴェイグの顔を眺める。
熱で上気した顔が赤い。呼吸も荒くて、なんだかいろんな意味で、イタイ。
だけど。だけど、ティトレイは、それが妙に色っぽいことに気付いた。
頭の中で、変な想像が出来上がってしまう。
それを考えるのがイヤで、ティトレイは部屋を飛び出した。

『ティト……レイッ……っ』

「あー!どっかいけ、もー!!」
ティトレイは頭を掻きむしって、その想像をどこかへやろうとした。
だが、一度思ってしまったものが、そう簡単に無くなるわけでもなく……。

結局、その日の夜は、悶々と過ごすことになったティトレイだった。

朝、ヴェイグはすっかりよくなっていた。
「みんな、心配をかけてすまなかった。旅も足止めをくらってしまったな……。本当にすまない」
「ううん、ヴェイグがよくなってよかったよ!ネ、アニー?」
「ええ。ただの風邪で、よかったですね」
「………おう」
ティトレイの様子に、ユージーンが心配そうに尋ねた。
「ティトレイ、大丈夫か?顔色が悪そうだが」
「えっ?……だ、大丈夫だよ!」
それならいいのだが、とユージーンは溜息をついた。
「さ、旅を続けよう」
ユージーンの言葉に、ヴェイグとアニーを除いたみんなが、おー!と手を挙げた。
だが、ティトレイは元気そうに見えて、それが空元気であることに誰も気付かなかった。

「悪い、おれ、ちょいトイレ」
ティトレイが申し訳なさそうに言う。
「えー!またあ!?……もう、ティトレイっておじいさんになったの?」
マオが頬をふくらませて、文句を言う。
「まあまあ、生理現象は誰にだって起こることだから。マオだってそうでしょう?」
なんだか、アニーがみんなのお母さんをしているような気がした。
「早く行ってこい、ティトレイ。オレたちは先に行ってる」
ヴェイグはきびすをかえすと、道をどんどん進んでいってしまった。
「あ、ちょっと、ヴェイグ〜!おいてかないでよ!」
マオも続く。アニーもその後に続いた。
「ティトレイ、単独行動は危険だ。いいのか?」
ユージーンだけが、ティトレイを心配していた。
「あ、大丈夫だよっ。この辺のバイラスは慣れてるからさ」
「油断は禁物だぞ?」
「分かってまーす」
ユージーン隊長に敬礼!と、ティトレイはふざけてみせる。ユージーンは呆れたのか、勝手にしろ、といって先に行ってしまった。 

「ふう……。マズイぜ、おれ……」
木にもたれかかりながら、ティトレイは呟いた。
昨日の一件以来、ちっとも休息をとれていない。
ことあるごとに、いや、ヴェイグが視界の中に入るたびに、ティトレイは昨日の想像を思い出してしまうのであった。
「ヴェイグ……」
ためいきをついたとき、ティトレイは背後に誰かが立っているのに気が付いた。
だが、振り向くことは叶わなかった。
「キミにひとつ頼みがあるんだけど」
ティトレイの脇腹に、冷たく光る銀のレイピアが押し当てられていた。
身動きしようものなら、容赦なく、それは自分の身体へと突き刺さっていることだろう。
「てめ……、サレか!?」
「さあ?どうだろうねえ……くっくっ」
その鼻につく薄笑いは、明らかにサレのものだ。
ティトレイは、いまさらながら、単独行動するべきではなかったと後悔した。
「てめえ、姉貴を返しやがれ」
「飽きないねえ、キミも。そうだな………、よし、僕の頼みを聞いてくれたら返すかもよ」
「本当か!?」
黒い影は、更に笑いを強めると、小さなビンを取り出した。
「コレを、ヴェイグに」
明らかに、毒、と分かる黒いビン。
「何で、ヴェイグに……、まさか!」
ティトレイは押しつけられているビンを、受け取らないように頑張りながら、黒い影に問うた。
「あれ、僕の好みしらないの?あのねえ、僕は一生懸命頑張っている奴が大好きなんだよ。………思わず、壊したくなっちゃうんだよねえ」
くつくつと笑う。
その笑いが気に入らなくて、ティトレイは苛立った。
「何が言いたいんだよ!」
「つまりね……キミの思っている感情通りに振る舞って欲しいってことさ。

ヤりたいんだろう?ヴェイグと」

びくり、とティトレイの肩が震える。
「そ、そんなわけ………!」
「自分の気持ちにウソついちゃダメだよ。……ふっ、ふははははッ」
高笑いをあげて、黒い影はティトレイの元を去っていく。
突然巻き起こった強風に、ティトレイは思わず顔を庇ってしまった。
「待て!待ちやがれ!」
風の中、ティトレイは声の限りを叫ぶ。
ティトレイの叫びは、風と共に虚しく木々のざわめきに溶けて、消えていった。
そして、ティトレイの左手には、黒いビンが握られていた。



「…………これを、ヴェイグのスープの中に入れれば……」

湯気の立ち上る器が並んでいる。中身は自慢のスープだ。
それをながめながら、ティトレイは、再びビンを手にしていた。
この液体を、ほんの少し。
ほんの少し…………。

『ティ…ト……』

「ダメだ!……おれには、出来ない!出来るわけない!」
ティトレイは、拳を握りしめた。


サレは、その様子を遠くから眺めていた。
ヒューマの女を連れた行進の中で。
「ったく、往生際の悪い………。ねえ、ワルトゥ」
「何かご用でも」
サレは口元に意地悪い笑みをうかべた。
「暗示をさ、あの全身緑色のヤツにかけといて。強力なの」
「まあ、いいでしょう。で、暗示の“言葉”はどうするのです?」
「もちろん、“  ”さ」
サレの笑みが大きくなる。
そうさ、絶対に彼が聞くことはないだろうね。
忍び笑いが聞こえたのか、先を歩いていたトーマが、怪訝そうに振り向いた。
「なぜ立ち止まっているんだ。早くバルカへ着かねばならんだろう」
「まあね、キミみたいに脳味噌が筋肉でできているバカと違って、僕はいろいろなことを考えているんだよ。ねえ、ワルトゥ」
「……いかんとも言い難いですが」
ワルトゥは、ティトレイへ暗示をかけた。
「サレ、ひとつ貸しですよ」
「ハイハイ」
…………サレも悪趣味だと思いながら。
サレは、余興を楽しむため、行進からそれていった。
「それじゃ、僕は先に行っているよ」
「待て、どこへ行く!サレ!……ちっ、これだからヒューマは……」
トーマの叫び声は虚しく響いただけだった。



「ティトレイ、騒がしいが、何かあったのか?」
ティトレイの目に、問題の中心であるヴェイグの姿が映った。
「……」

『  』

「!」
何か頭に言葉を感じた瞬間、ティトレイの意識は妙な興奮を示した。
ティトレイの心の中から、ためらいが跡形もなく消え去った。
ヴェイグは不審に思ったが、ティトレイがこちらに背を向けているので、何をしているのか分からない。
ティトレイは、無言でヴェイグの料理に液体を数滴垂らしていた。
そして、何もなかったかのようにビンをポケットにしまう。
「お、ヴェイグじゃねえか。何だ?ハラ減ったのか?」
ティトレイは満面の笑みで、ヴェイグに向き直る。
「ティト、レイ?」
「今、ちょうどスープできたんだ。飲むだろ?」
ティトレイの笑顔に押されて、ヴェイグは頷いた。
「なあ、マオたちはどうしたんだ?」
ヴェイグに皿を渡しながら聞いた。
「ああ。マオなら川で釣りをしていた。ググラじいさんに教えてもらった釣り方が、上手くいったらしい」
「ああ、あれな」
ティトレイは、スプーンをふたつもってきて、ひとつをヴェイグに渡すと、となりに座り込んだ。
「いっただっきまーす」
ティトレイはしっかりと手を合わせる。そして、がつがつという擬音が似合う勢いで、スープを食べ始めた。
「何だよ、食べないのか?まさか、おれの作ったスープがまずそうだなんて、言い出すんじゃないだろうな」
「いや…、そうじゃない」
「んじゃ、食べろよ。ハラ減ってんだろ?」
ティトレイの一言で、ヴェイグは、食べなければならない、という責任感に駆られてしまった。
スプーンを握りなおす。何かの動物からダシをとったスープの中に、一口大に切った野菜が浮いている。匂いは、本当に美味しそうで、嗅いだ者の食欲をそそる。
一口、ヴェイグはスープをすすった。
口の中で、よく煮込まれた野菜がとろけていく。スープの濃厚な味が、口全体に広がっていき、しかし、その後味はあっさりしている。
今更ながら、ティトレイの腕の良さに感嘆する。
「美味い……」
素直に感想を述べると、ティトレイはにこっと笑って満足げに頷いた。
「だろ、なんたって、五つ星シェフティトレイ様のスープだからな」
「ああ」
だけど、とヴェイグは思う。

何か、違う……。

「……ッ」
何口かスープを飲み込むと、ヴェイグは身体に異変を感じた。
「……ぁ…?」
身体の奥から、熱い波が押し寄せてくる。流されまいと、必死になりながら、ヴェイグはティトレイを見た。
まだ、優しく笑いながら、向こうもこちらを見ている。

カラン…………

ヴェイグの手から、スープの皿が転げ落ちる。
スープの中身が、床に零れた。
「あーあ、もったいねえの」
「ティト……イ、何を……ッ」
膝をつくヴェイグの肩にティトレイは優しく手を乗せる。
「どうしたんだよ。“暑い”のか?……それとも、“熱い”のか?」
「……?何を、言って」
ティトレイは、ヴェイグの耳に唇を寄せる。
「ずっと……、お前が欲しかった」
耳に熱い息が、ティトレイの囁きが、かかる。
ティトレイの言葉は、甘く、それでいてどこか哀しげで。
ヴェイグは、消えそうになる自分の理性を必死で掴みながら、ティトレイを見上げた。

………こんなコトをしてまで、ティトレイはオレを欲しかったのか?
ずっと………?
バカだな……そんなことしなくたって………

ぷつん、とヴェイグは頭の中で何かが切れたのを感じた。それが何なのか、ヴェイグには分かっていたが、今のヴェイグはそんなことを気にしている場合ではなかった。
もう、二人とも理性という心の堰が取り去らわれてしまったのだ。
ヴェイグはティトレイを思い切り突き飛ばす。でも、それは拒絶のそれではなく、組み敷く、といったほうがいいのかもしれない。
ティトレイはされるがまま、ヴェイグに組み敷かれている。
「ティトレイ………」
ティトレイを見つめるヴェイグの瞳が、白く欲情に濡れてぼんやりとしている。
口を薄く開き、上唇を舐めるその姿に、ティトレイは痺れにも似た欲情を覚えた。
「脱がせて……」
語尾が淫らにかすれる。
ヴェイグが自らの服のベルトをゆるめ始める。だが、その動作は非常にゆっくりとしていた。その動きは、熟練された娼婦ですら成し得ない、官能的なものだった。
ティトレイは腕を伸ばして、ヴェイグの軽鎧をとってやる。ついでに、腕輪と共に黒い手袋もとってやった。
「ん……」
ヴェイグがティトレイの唇に自らのそれを重ねる。ティトレイもそれに答えた。
何かを奪い取ろうかというように動く二人の唇。舌を絡め取り、また、熱くたぎる唾液を相手に送り込む。卑猥な水音が響いた。
ティトレイは甘いキスの感覚に酔いながら、ヴェイグの胸に手を合わせる。
自分と対して変わりない胸板の厚さを感じながら、布越しでもはっきり分かる、腫れ上がった小さい飾りをなでさする。ヴェイグはもどかしく腰を振りながら、唇を離した。
ヴェイグは、ティトレイの服も器用に脱がす。
そして、露わになったティトレイの欲情を誇示しているものをうっとりと眺めた。愛おしくなでた。
先端を口に含む。舌で転がすようにしながら、ゆっくりと飲み込んでいく。
「ん……」
時折、苦しげな息を吐きながら、ヴェイグはついに全てを飲み込んだ。
ゆっくりとした動作で、ヴェイグは手と、舌とを動かす。口から溢れる液体は、もうどちらのものか分からない。
ティトレイは、一言も発せずに、ただ無感動に奉仕するヴェイグを眺めていた。
「ふ、ぅ……ん……、ん……っ」
やがて、張りつめていたものがはじける。口の中に四散した白濁を、余すことなく全て飲み込む。
「足りない」
ヴェイグは一言呟くと、衣服を全て脱ぎ捨てた。
今度は、ティトレイを自分へ引き寄せる。そして、もう一度口づける。
「ん……、ふ、ぁ……んっ……」
ヴェイグの口から、切ない喘ぎ声がこぼれていった。
「……」
焼けつくような欲情のずっと奥で、絶えることなく、ティトレイはヴェイグに謝罪していた。
でも、ティトレイはそれに気付かない。
確かにワルトゥに強力な暗示をかけられている。でも、ティトレイはそんなことよりももっと強く、ヴェイグを欲していた。求めていた。
「あっ……ん、あ……ッ」
愛していた………。
「ティト……、レ……あッ、ん…っ、はぁ……ん」
切れ切れに声をあげ啼くヴェイグを、ティトレイはどこか冷静にみていた。

サレ……、壊したいのは、おれだって同じだ…………
おれだけの、壊れた人形に……

「イイ……ッ、ティトレ……、ああッ、あっ……ティトレイ……ッ!」
「おれも……、イキそう……」
ヴェイグを激しく突き上げながら、ティトレイは呟いた。

コワレテシマエ
オレモオマエモ

「ああ……、あっ…あ、んぁ……ッ、……きっ、ティトレイ……っ」
ヴェイグの濡れた声の中に、普段聞かない言葉があって眉をひそめた。
「ティトレイ……ッ、ス、キ……っ」

スキ………?

ぱん、と何かがはじけたと思った。
ティトレイの頭の中で、ぐるぐるとまわっていた暗示が、一瞬にしてとけた。
だが、そのほかは何も変わらなかった。ティトレイの表情すら。
思考回路が完全にティトレイのものとなったとき、彼は今自分の持つ最大の優しさでヴェイグを貫いた。
「あっ、ああ────ッ!!」
ひときわ高い声をあげて、ヴェイグが達する。それとほぼ同時に、ティトレイもまた、ヴェイグの中に欲情の限りをほとばしらせていた。


サレは思い切り拳を握った。
計画は上手くいったのだが、何か納得行かない。
「あの、緑……」
歯ぎしりする。
ヴェイグの乱れた姿は、非常に良かったのだが……
だが、この苛立つ気持ちは何なんだ?
「ふっ、ふはははっ……はは……」
なぜかは分からないが、笑いがこみ上げてくる。
恋を経験したことのないサレには分からない感情だった。
「……バカが」
それは、誰に対してのつぶやきだろうか。
ティトレイか、ヴェイグか……。
それとも、訳の分からない感情に振り回されている自分自身か……
「本当に、バカだよ……」
サレのつぶやきは、ほんの僅か、僅か、自嘲ぎみに聞こえた。
「勝手にしろ」
サレは、抱きしめ会ったままの二人に背を向けて、歩み出した。
もう、見ていられなかった。自分で仕掛けたことなのに、苛立ってしょうがなかった。 


「どうして、だよ…………」
息を乱したまま、ティトレイが尋ねる。
彼の精神力なら、自分を突き放せたはずなのに。
そして、この自分を抱きしめている手を離せるはずなのに。
「バカ……」
ヴェイグがティトレイの肩に顔を埋めながら小さく呟く。
その言葉の意味が分からなくて、ティトレイは眉をひそめた。
「………なぜ、こんなことを……」
ヴェイグの声が震えている。でも、ティトレイの身体を突き飛ばそうとはしない。
「ゴメン。………本当に、ゴメン」
そのことを怪訝に思いながら、ティトレイは謝り続けた。
ヴェイグが好きだという気持ちも、ヴェイグが欲しいという気持ちも、ティトレイにとっては、嘘偽りない気持ちだ。
でも、ティトレイにはこれしかできなかった。
心の中からあふれ出る気持ちを、言葉や、カタチに表すことなど、不器用なティトレイには無理だった。
きっと、クスリの件が無くても、いつかはこうなる時が来ただろう。
「………もう、いい」
ずっと同じ言葉を伝え続けるティトレイを、ヴェイグが制す。
ティトレイの気持ちは、痛いほどよく分かったから。
抱きしめていた腕をといて、ティトレイの顔を見つめる。しばらくして、意を決したように、ヴェイグがささやいた。
「オレが欲しいなら……、いくらでも、やる……から」
頬を紅く染めたヴェイグの顔を見て、ティトレイは、びっくりした。
「何で……」
「…………」
ヴェイグはそれには答えずに、ティトレイの頬へ軽くキスをした。
「だから……。あんな変なこと、しなくても……よかったのに」
変なこと………。それって。
「お前、知って……!?」
ヴェイグは、誤魔化すようにティトレイに唇を押しつけた。
「オレも、お前が………欲しかった…んだ。だから、とても嬉しかった……」
「ヴェイグ……」
恥ずかしそうに俯くヴェイグ。なんだかそれが無性に愛おしくなって、ティトレイはきつくヴェイグを抱きしめた。
想いが通じ合った瞬間ほど嬉しいものはないと、ティトレイは感じた。
友情よりも、愛情のほうが感動はひとしおで。
「だから……、その……」
ヴェイグはもじもじとしながら、ティトレイへ腕を回した。
「きっと、お前のこと……好き…なんだと、思う」
その声は、本当にか細かったけど。
「ヴェイグッ!」
嬉しい。すごく、嬉しい。
「おれ、もうこのまま死んじゃってもいいかも!」
「……そんな大げさな」
ティトレイの調子の良さに呆れながら、それでも、そんなところが愛おしいのだと、ヴェイグは思った。


オレは、お前だけの人形になりたい。
そうすれば、お前の気持ちをもっと楽に受け止めることが出来るのに。
遠慮無く、壊されるのに。
もっと、お前色に染めて欲しい。もっと、お前に蝕まれたい。
お前だけのオレで居たい。

好きだから………

あとがき(とは名ばかりの言い訳)

ティトレイ=おれ ヴェイグ=オレ
リバースの初書きがェロってどういうことなんでしょう、自分!(汗
っていうか、この頃はティトヴェイ(サレヴェイ)だったんだな〜、って懐かしい(笑
今はヴェイサレですからね(受から攻かよ)私は。
友達が理解してくれないんですよ、サレ受……。  @空見

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